プロローグ : 凶星
 



まばゆい双つ星がこの世に生まれ落ちたその夜、アスリー王国郊外にある神殿に託宣が下った。

はるばる馬に乗り神殿より城に伝え参った神官は、玉座の前でうやしく頭を垂れ、書状を開き、大神官によってしたためられた託宣の内容を読み上げた。
栄えあるアスリー王国の七人の大臣も玉座の両脇に控え、おごそかな表情の顔を並べ、神官による口上に耳を傾ける。
──と、最初は、豪奢な玉座にふんぞり返り、ゆったり構えて聞いていた王の顔が、みる間に怒りで土気色に染まっていった。
果たして──神官の首は全ての文章を読み上げる前に王の剣の一閃と共に胴体を離れ──玉間の床に転がる事になった。

誠に暗愚な王だった。
だが妃にとっては誠に
良き夫であった。
もとは従妹である美しい妃を王は盲愛した。
月の光を編んだような金糸の髪、南海の海の色を映した青くつぶらな瞳に、桜色の可憐な唇──
その滑らかな肌は絹よりきめ細かく、処女雪の様に白かった──これ以上に美しい女はこの世におるまいと王は思っていた。
妃の身も心も王はこよなく愛したが、愛が深すぎたらしい、元より病弱な妃には王との毎夜に渡る愛の営みは過酷だった。妃はすぐに懐妊したが、出産に耐えられず、双子の姫君の命とともにその花の様な命を儚く散らせた。

『一の姫は蒙昧の星、二の姫は煉獄の星』
城へやって来た神官は告げた。どちらを立てても王国の災いとなると──
妃の死のショック冷めやらぬうちに、妃の忘れ形見で同じ色の髪に瞳を持った、王にとってはまさに目に入れても痛くないほど可愛い姫君についての不吉な託宣とあれば、王が動揺するも道理だった。
「余はそんな世迷言は信じぬ、いいか大臣達よ、今日聞いた託宣の内容は忘れるのだ、それと第三大臣」
「は」
王に呼ばわれた軍事担当の第三大臣が一歩進み出た。
「騎士団を連れ神殿へ赴き、託宣を知る神官の首はことごとく跳ねよ」
「かしこまりました。我が君」

第三大臣の答えは迷いなくその行動は迅速だった──夜の明ける前に神殿の床はおびただしい血で洗われる事になった── 


  
                  

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